店頭地獄

投稿日:2012/06/23
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歩いてドーナツショップの前を通りました。
店に近づくとカラコロと鐘の音が響いていました。
その日はセールをやっていたのですが、
あいにくの雨で客足が鈍かったのでしょう、
男性店員が必死に呼び込みをしていました。
「ドーナツ90円ですよーっ」と叫ぶ勢いで言っていました。
段ボールの箱を平たくしてビニール紐を装着した、おそらく自家製のボードを首から下げていました。
ボードを読むと『ドーナツ90円』と書いてありました。
『舞台の練習で台本替わりのボードを読んでいるのか』はたまた『罰ゲーム』か『忘れっぽい』のかと考え、つい微笑んでしまいました。
私の微笑を好意的に受け取ったのか、男性は私に向かって「ドーナツ90円です、美味しいです」と言いました。
彼の足元には、子供用のプールが置いてあり、水風船が水面一杯に浮かんでいました。
ノルマでこの水風船が無くなるまでは、店頭で叫び続ける仕組みかもしれません。
「お腹一杯でドーナツはいらないんですけど、水風船は貰えるんですか?」
「ドーナツを買って頂いた方だけなんですよ〜」
なにやら心底残念そうです。
「そらそうですよね〜」と私は返しました。
立ち去る時に、横で小さな女の子がライオンの着ぐるみと握手をしていました。
「お母さんは?」と男性が尋ねると
「中で買い物」と答えてました。
それから私は用事を済ませて30分位後に、又ドーナツショップの前を通りました。
ライオンと女の子は、まだ握手をし続けていました。
女の子の握手をしてない方の手には、二つの赤と黒の水風船が握られていました。
もはや、男性の声は随分と小さくなり、ライオンは椅子に座って下を向いてしまってます。
男性が私をチラッと見たので「ご苦労様です」と言いました。
カラコロとひときわ大きい鐘の音で見送ってくれました。
ライオンは右手以外は動いてませんでした。


カテゴリ:グルメ